労務
給与明細のWeb化で印刷・封入・郵送をなくす。進め方と残る作業
毎月の支給日前に、給与明細を印刷し、三つ折りにして封筒に入れ、拠点ごとに仕分けて郵送する。従業員が数十名を超えると、この作業だけで半日が消えます。給与計算そのものと違って判断の要素がないのに、締めと同じ時期に必ず来る作業です。最初に確かめてほしいのは、いまの給与ソフトに配信機能があるかどうかです。あるなら開発は要りません。その確認から従業員の承諾までの進め方と、Web化しても残る作業を、規模を仮置きした計算とあわせて書きます。
バックオフィス自動化エンジニア
明細の配布は、給与計算が終わったあとの「もうひと山」になっている
給与計算は締め・計算・チェックで終わりません。そのあとに、明細を全員分印刷し、封入し、手渡しか郵送で配る工程が控えています。拠点が複数あれば郵送の締切が実質の給与確定期限になり、計算のやり直しが利かなくなります。
この工程は人数に比例して伸びます。判断の要素がないのに、支給日という動かせない締切だけがある。労務の月次の中で、最も機械に譲りやすい仕事です。
紙で配る限り、誤封入(他人の明細を入れてしまう)というリスクも毎月抱え続けます。金額のミスと違って、起きた瞬間に信頼の問題になります。
従業員80名・3拠点なら、配布だけで月3時間強
従業員80名、拠点が3つある会社で計算してみます。明細1通の印刷・三つ折り・封入に2分かかるとすると、80通で160分。拠点ごとの仕分けと発送準備に計40分。合わせて月200分、3時間20分です。年間では40時間、まる1週間分の労働時間が配布だけに使われている計算になります。
Web配信に切り替えると、この工程は「計算結果を確定して配信する」操作に置き換わります。配信の操作と、閲覧していない従業員への案内を合わせて月30分と見ても、差し引きで月3時間近く、年間では34時間が浮く計算です。
時間よりも大きいのは、誤封入という事故の可能性ごと消えることです。本人のアカウントにしか届かない仕組みは、どれだけ注意深く封入する運用よりも確実です。
まず、いまの給与ソフトに明細のWeb配信機能があるかを確認する
進め方の最初は、専用サービスの比較ではありません。いま使っている給与ソフトの機能一覧を開くことです。クラウド型の給与ソフトの多くは、計算結果をそのまま従業員のスマホやPCに配信する機能を持っています。
給与ソフト標準の配信機能で足りるなら、追加費用はプラン差分だけで、明細データの受け渡しという工程自体が発生しません。計算が確定した時点で配信まで終わります。
給与明細配信サービスを別に検討するのは、給与ソフトがインストール型で配信機能がない場合や、複数の給与ソフトを併用していて明細の出口を1つにまとめたい場合です。このとき初めて「給与ソフトから明細データを出力し、配信サービスに取り込む」というデータの流れを設計することになります。
給与ソフトと配信サービスの間に挟まる変換作業
配信サービスを足す構成にした場合、毎月「給与ソフトからCSVやPDFを出力し、配信サービスの取込形式に合わせて整えてアップロードする」作業が挟まります。ここを手作業のままにすると、封入がアップロードに置き換わっただけで、締め日の負担はあまり減りません。
この変換は自動化できます。出力ファイルの列の並べ替え、項目名の読み替え、従業員コードの突合を決まった規則で処理し、人は取込前の件数と合計額の確認だけを行う形です。当方は給与計算SaaSの設計に携わっており、給与ソフトの出力データを別のシステムに渡すこの種の変換は、実装として最も定型化しやすい部類です。
変換規則をプログラムの中に埋め込まず、設定表に持たせておくと、給与ソフトを乗り換えたときも設定の書き換えで追従できます。
Web化しても残る作業と、その自動化
Web化で印刷と封入は消えますが、残る作業があります。代表的なのは、明細を見ていない従業員への案内、入社・退職に伴う配信対象の更新、そして退職者への最後の明細の交付です。
未読の従業員への案内は、配信サービスの閲覧状況を確認して個別に声をかける形になりがちで、これは打刻漏れの督促と同じ構図です。閲覧状況のデータが取れるサービスであれば、未読者にだけ自動で通知を送る仕組みは小さく作れます。
退職者はWebアカウントが止まるため、紙かPDFでの個別交付に戻ります。件数は少なくても毎月発生するので、運用手順として最初に決めておくと迷いません。
つまずきやすいのは技術より、従業員の承諾と現場のスマホ事情
給与明細を電子交付に切り替えるには、従業員本人の承諾が必要とされています(所得税法上の取り扱い)。全員一斉に切り替えるつもりで進めると、承諾を取る段取りが抜けて配信開始が1〜2か月ずれます。案内文と承諾の記録方法まで含めて計画に入れてください。
もう1つは、会社のメールアドレスを持たない現場従業員です。製造・運送・介護の現場では珍しくありません。個人スマホでの閲覧を認めるか、紙を一部残すかを先に決めないと、結局全員分を印刷する二重運用になります。
紙が一部残ること自体は失敗ではありません。想定例の80名のうち70名がWebに移れば、封入の作業は8分の1です。全員移行にこだわって開始が遅れるほうが損です。
いまの給与ソフトの配信機能を確かめるところから
順序は次のとおりです。①いまの給与ソフトの配信機能を確認する。②足りなければ配信サービスを選び、取込形式を確認する。③従業員の承諾を取る。④給与ソフトからの変換が毎月手作業になるなら、そこを自動化する。
費用の目安は、給与ソフト標準機能で済むなら開発費はかかりません。配信サービスとの間の変換・突合の自動化は、当方の費用帯でいうと「ひとつの作業を自動化する」10万円〜50万円の範囲に収まることがほとんどです。未読通知のような周辺の仕組みを足しても30万円台から組めます。
回収の計算は単純です。想定例のとおり月3時間強の配布が30分になるなら、浮くのは年間34時間。時給2,500円換算で年間8万円強です。給与ソフト標準機能の範囲で実現できるなら開発費ゼロでこの効果が出ますし、配信サービスを足す構成でも、誤封入リスクの解消まで含めれば投資判断としては小さい部類です。
検討の最初の一歩は見積り依頼ではありません。いまの給与ソフトの管理画面で「明細」「Web明細」「電子交付」のメニューを探すことです。そこにあれば、この記事の後半は読まずに済みます。
