労務
社労士事務所の公文書ダウンロードを自動化する。夜間に回して朝には揃える
電子申請が返ってくるたびに、社労夢やオフィスステーションを開いて公文書を1件ずつダウンロードし、ファイル名を付け直して顧問先ごとのフォルダに保存する。この作業に毎月まとまった時間を使っている社労士事務所は珍しくありません。判断の要らない作業なのに、件数に比例して時間が消えていきます。以下では、この作業を夜間の自動実行に置き換えたときに何が残るかを月800件の想定で計算し、市販RPAと個別開発の分かれ目、費用の考え方まで書きます。
バックオフィス自動化エンジニア
ダウンロードと保存だけで一日が終わる日がある
電子申請に切り替えると、役所へ行く時間はなくなります。その代わりに、返ってきた公文書を取り込む作業が増えます。申請ごとに業務システムを開き、公文書をダウンロードし、顧問先名と手続き名が分かるファイル名に直し、決まったフォルダに保存して、必要なら顧問先へ送る。1件あたりは数分でも、顧問先が増えるほど件数は積み上がります。
この作業の特徴は、途中に判断がないことです。どの公文書をどこに保存するかのルールは決まっていて、誰がやっても結果は同じです。経験のある職員が張り付く意味がない作業ほど、自動化の効果は大きく出ます。
もう1つの負担は、割り込みです。離職票のように、届いたらすぐ顧問先へ送る必要がある公文書が混ざるため、他の業務の途中でも手を止めて対応することになります。時間の総量だけでなく、細切れに差し込まれることが集中を削ります。
1件3分・月800件なら、それだけで月40時間
顧問先が80社ある社労士事務所で数えてみます。電子申請の公文書が1社あたり月10件返ってくるとすると、月800件です。1件あたり、システムを開いて該当の公文書を探し、ダウンロードして、顧問先名と手続き名でリネームし、フォルダに保存するまでで3分。800件×3分で2,400分、月40時間になります。時給3,000円の職員がやれば月12万円、年間144万円が、判断のない作業に使われている計算です。
ここに夜間の自動実行を入れます。毎晩決まった時刻に、機械が業務システムへログインして新着の公文書一覧を取り、すべてダウンロードし、決めたルールでリネームして顧問先ごとのフォルダに置き、処理件数と失敗の有無を担当者に通知する。朝出勤するとフォルダに揃っている状態になり、人の作業は、失敗した数件の確認と、離職票のような急ぎの公文書を顧問先へ送る判断だけになります。月40時間が、月数時間の確認に変わる設計です。
規模が小さくても構図は同じです。顧問先30社・月300件なら、300件×3分で900分、月15時間。御社の件数と1件あたりの時間を掛ければ、そのまま御社の数字になります。
仕組みの中身: 取得から通知までの流れを固める
作る側から見ると、この業務は「取得 → 名前の付け直し → 保存 → 通知」の4段階です。業務システムにログインして新しい公文書の一覧を取り、ダウンロードし、顧問先名・手続き名・日付でファイル名を組み立て、顧問先ごとのフォルダに置き、処理した件数を担当者に知らせる。それぞれの段階は単純で、難しい技術は使いません。
先に決めておくべきなのは、ファイル名と保存先のルールです。手作業の間は人によって付け方が揺れていても業務は回りますが、機械に任せるにはルールを1つに固定する必要があります。逆に言えば、このルールを紙に書き出せた時点で、自動化の要件の大半は終わっています。
夜間に実行するのには理由があります。日中は人がシステムを使っているため、同じアカウントで機械を動かすと操作がぶつかります。夜間なら画面の動作も安定し、もし失敗しても朝に人が確認してやり直せます。毎晩動かして朝に結果を確認する形が、この業務にはいちばん合っています。
市販RPAと個別開発の使い分け
この業務は画面操作の自動化になるため、選択肢は市販のRPA(人が画面でやる操作をそのまま機械に再現させるツール)か、ブラウザ操作を自動化する個別開発かの2つです。
市販RPAは、事務所の職員が自分で手を入れられることが利点です。月額のライセンス費用が継続的にかかること、作った人が辞めると誰も直せなくなりやすいことが注意点です。
個別開発は、ブラウザ操作を自動化するプログラムを作る形です。ライセンス費用がかからず、件数が多くても安定して動きますが、直せるのは開発した側になります。当方はこの形の自動化を決済システムの運用現場で作り、16名チームの定型業務を月320時間減らした経験があります。
どちらが向くかは、社内に手を入れられる人がいるかで決まります。いるなら市販RPA、いないなら個別開発で「壊れたら開発側が直す」保守契約を付ける形が現実的です。
費用の比べ方にも注意してください。市販RPAは初期費用が小さく見えますが、月数万円のライセンスが続くと3年で百万円を超えます。個別開発は最初にまとまった金額が出る代わりに、その後は保守費だけです。3年分の合計で並べると、判断を間違えにくくなります。
つまずくのは、画面の変更と失敗の検知
画面操作の自動化は、システムの画面が変わると止まります。業務システムの更新は避けられないので、止まったときに誰が直すかを最初に決めておかないと、止まったまま手作業に戻ります。
もう1つのつまずきは、失敗の検知です。100件中99件成功して1件だけ失敗したとき、その1件に気づけない仕組みは実務では使えません。処理した件数とシステム上の件数を照合し、合わないときだけ人に知らせる。この確認の部分は省かずに作ってください。全自動に見えて、最後の確認だけは人が受け持つ形が安全です。
まず件数の多い1システムの、ダウンロードと保存だけに絞る
一度に全部を自動化する必要はありません。使っている業務システムが2つあるなら、件数の多いほうの1つ、その中でもダウンロードと保存だけに絞って始めます。この規模なら30万円台から作れます。通知や顧問先への送付は、動きを確かめてから足せばよい部分です。
広げる順番も先に決めておきます。ダウンロードと保存が安定したら、次に処理結果の通知、その次に顧問先への送付です。送付にはメールの誤送信という別の種類の事故がありうるため、最後に、人の確認を挟む形で足すのが安全です。
回収は時間で計算できます。この作業に月20時間使っているなら、職員の人件費を時給3,000円として年間72万円です。30万円台の投資なら1年経たずに戻ります。シナリオに置いた月40時間の規模であれば、判断に迷う余地はほとんどありません。まず、公文書の処理に毎月何時間使っているかを数えるところから始めてください。
