労務
給与計算前のデータ整形を自動化する。取込ファイルづくりを照合だけにする
顧問先から届いたExcelの勤怠データを開き、列を並べ替え、コードを直し、給与システムに取り込める形のファイルを作る。社労士事務所の給与計算は、計算そのものより、この「前」の整形に時間を使います。手で直すからミスが入り、ミスが入るからチェックにさらに時間がかかる。ここでは同じ形式の顧問先12社という想定で、整形が照合だけになると何が変わるかを計算し、マクロで足りる範囲と個別開発の分かれ目、費用まで書きます。
バックオフィス自動化エンジニア
給与計算の時間は、計算の前に消えている
給与システムに正しいデータさえ入れば、計算は一瞬で終わります。時間を使っているのはその手前です。顧問先ごとに形の違う勤怠データを受け取り、給与システムが要求する取込形式に手で直す。従業員コードの対応表を突き合わせ、時間の表記を揃え、締め日の違いを吸収する。
手作業である限り、ここには必ず入力ミスが混ざります。そしてミスが混ざる前提だから、直した後のチェックと修正にまた時間がかかります。整形とチェックはセットで工数になっていて、整形を自動化すればチェックの大半も一緒に消えます。
さらに、この作業は締めの数日間に集中します。顧問先ごとに勤怠データが届くのを待ち、届いた順に整形して、給与計算と振込の期限までに終わらせる。整形に使う時間が長いほど、内容の確認や顧問先への問い合わせに使える余裕が削られていきます。
12社×45分の整形が、5分の照合になる
たとえば、給与計算を受託する顧問先が40社ある社労士事務所。うち12社は同じ勤怠システムを使っていて、Excelの出力形式も同じだとします。1社あたり、列の並べ替え・従業員コードの変換・時間表記の統一と、直した後のチェックまでで45分。12社×45分で540分、この1形式だけで月9時間です。
ここに変換の仕組みを入れます。届いたファイルを所定のフォルダに置いて実行すると、給与システムの取込形式のファイルが自動でできあがる。人の作業は、機械が出した件数と合計時間を勤怠側の集計と照合することだけになり、1社あたり5分で済みます。12社×5分で60分、月9時間が月1時間になる設計です。差は月8時間、年間96時間。時給3,000円なら年間約29万円で、手入力のミスとやり直しが減る分は、この計算の外側でさらに効きます。
数字はすべて置いた値です。「同じ形式の顧問先の数×1社あたりの整形時間」に御社の値を入れれば、そのまま御社の削減見込みになります。
仕組みの中身: 出口は固定、入口だけが可変
作る側から見ると、この業務には設計しやすい性質があります。出口、つまり給与システムの取込形式は仕様が公開されていて固定です。変わるのは入口、顧問先ごとの勤怠データの形だけです。データの流れは「顧問先の形式を読む → 共通の形に直す → 給与システムの取込形式で書き出す」の3段階になります。
このとき、顧問先ごとの違いをプログラムの中に書かないことが重要です。「この会社は3列目が出勤時刻」「この会社は従業員コードの桁が違う」という対応は、設定として外に持たせます。新しい顧問先が増えたときに設定を1行足すだけで済み、事務所の職員が自分で追加できるからです。この考え方は当方が勤怠集計の記事で書いたものと同じで、当方自身、勤怠・給与計算SaaSの設計で取込データの仕様を作る側にいました。
間に共通の形をひとつ挟む理由もここにあります。顧問先の形式から給与ソフトの形式へ直接変換する作りにすると、給与ソフトを替えたときに全顧問先分を作り直すことになります。共通の形を挟んでおけば、直すのは出口の1か所だけで済みます。
ツールの選択肢: RPAだけが答えとは限らない
この業務は画面操作を含まない「ファイルからファイルへの変換」なので、選択肢は広めです。
市販RPA(画面操作をそのまま機械に再現させるツール)は職員が自分で育てられる反面、月額費用がかかり、変換ロジックが複雑になると作りにくくなります。ExcelマクロやGoogleスプレッドシートに付属する自動化機能(GAS)は費用が小さく、変換だけなら十分に届きます。個別開発のプログラムは、顧問先の数が多く形式の種類が増えても、設定の追加だけで横に広げられることが利点です。
分かれ目は形式の種類の数です。2〜3形式ならマクロやGASで足ります。10形式を超える見込みなら、設定で切り分けられる個別開発のほうが、2年後に抱えるものが小さくなります。
つまずくのは、例外の扱いと「確認を消してしまう」こと
つまずきの第一は例外です。月の途中の入退社、締め日の違う顧問先、半休の扱いが就業規則で違う会社。例外をすべて自動化しようとすると費用が膨らむので、例外は自動処理から外して人に回す設計にします。全体の9割を機械が通し、残りを人が見るだけで、工数は大きく減ります。
第二は、チェックまで消してしまうことです。整形を自動化しても、給与に流れる数字の最終確認は残してください。作るべきは、人が全件を目で見るチェックの代わりに、機械が件数と合計時間を突き合わせて、合わないときだけ知らせる仕組みです。間違った数字がそのまま給与計算に流れる事故は、削減した時間では取り返せません。
もう1点、自動で作ったファイルに人が手を入れたときの扱いも決めておきます。手で直した内容は翌月また同じ修正が要ります。同じ手直しが2か月続いたら、ルール化して設定に入れる。この運用を決めておくと、仕組みが月を追うごとに手離れしていきます。
同じ形式を使う顧問先が多い1形式から
顧問先を「件数 × 1社あたりの整形時間」で並べ、時間を使っている上位の顧問先が使っている形式を1つ選びます。同じ勤怠システムを使う顧問先が複数あれば、その形式が最優先です。1形式への対応なら30万円台から作れます。
回収の計算は先のシナリオのとおりです。同じ形式の顧問先が12社なら月8時間、年間96時間の削減で、時給3,000円なら年間約29万円。1形式30万円台なら1年強で戻ります。効果を確かめてから、次の形式に広げるかを決めてください。
順番の判断に迷うときは、まず1か月分の作業時間を顧問先別に記録してみてください。感覚と記録は多くの場合ずれていて、記録を取ると、最初に自動化すべき形式がはっきりします。
