労務
残業代集計の目視チェックを自動化する。人が見るのは引っかかった行だけにする
残業時間の集計表と打刻データを並べて、数字が合っているかを目で追う。この確認を毎日、あるいは締めのたびにやっている労務担当や社労士事務所は多いはずです。間違いが給与に直結するから省けない。省けないから人が張り付く。省けない前提のまま、人の目の使い方だけを変えるとどうなるか。従業員250人の想定で計算し、チェックのルールを言葉にする方法から、毎日回す仕組みに必要な性質までを書きます。
バックオフィス自動化エンジニア
目視チェックの正体は「差分探し」
残業代集計のチェックで人がやっているのは、2つのデータを見比べて食い違いを探すことです。打刻データと残業申請、システムの集計と手元のExcel、今月の数字と先月の傾向。食い違いがなければ何も起きず、あれば原因を調べる。つまり作業時間のほとんどは「何もない」ことを確認するために使われています。
全件を突き合わせて差分を出すのは、機械がいちばん得意な仕事です。人にしかできないのは、見つかった差分の原因を調べて判断する部分だけです。この切り分けができると、チェックの時間は差分の件数分だけになります。
しかも、このチェックは省く判断がしにくい作業です。見逃しが残業代の過不足に直結し、未払いは是正の対象にもなるからです。省けないという判断は正しく、だからこそ、人の目の使い方を変えることに意味があります。
毎日1時間半のチェックが、10分の一覧確認になる
従業員250人の会社の労務担当を思い浮かべてください。毎日、前日の打刻データと残業申請を突き合わせ、食い違いや申請漏れを目視で探すのに1時間半。月20営業日なら30時間で、1人の月の勤務時間の2割近くがこの確認に使われている計算です。
ここに自動突合を入れます。チェックの観点をルールに書き起こし、機械が毎朝、全件を突き合わせて、引っかかった行だけを一覧にして担当者に通知する。人が見るのはその一覧だけになり、引っかかりが数件の日なら10分で終わります。1日あたりの差は80分、月20営業日で1,600分、約27時間です。時給3,000円なら月8万円、年間96万円になります。
毎日の作業だという点が効いています。月に1回の作業と違い、毎日の1時間半は1.5時間×20営業日×12か月で年間360時間の規模です。頻度の高い作業ほど、削減の絶対量は大きくなります。
仕組みの中身: チェックのルールを言葉にする
作る側から見ると、最初にやるのはプログラムを書くことより、いまのチェックで何を見ているかを言葉にすることです。「打刻と申請が15分以上ずれていたら確認する」「月45時間に近づいたら知らせる」「休日出勤に振替の記録がなければ確認する」。ベテランが目で見て気づいていることは、たいてい数行のルールに書き起こせます。
書き起こしは担当者への聞き取りで進めます。「どこを見て気づきますか」と聞くと最初は「なんとなく」と返ってきますが、直近で見つけた間違いをいくつか挙げてもらうと、それぞれに気づいた理由があります。その理由がそのままルールになります。
書き起こせたら、データの流れはこうなります。勤怠システムから打刻と申請のデータを取り出し、ルールに沿って全件を突き合わせ、引っかかった行だけを一覧にして担当者に知らせる。人は毎朝、その一覧だけを見ればよくなります。当方が決済システムの運用現場で16名チームの定型業務を自動化したときも、中心はこの形の突合と通知でした。
データの取り出し方は勤怠システムによって変わります。APIで取れるか、CSVを人が出すか。使っているシステムと契約プランで何が取れるかを、作り始める前に確認しておきます。
ツールの選択肢と、毎日回すものに必要な性質
市販RPAは画面操作ごと自動化できるため、勤怠システムからの取り出しも含めて1本にできます。個別開発なら、APIやCSVからデータを読んで突合するプログラムを作り、結果をSlackやメールに流します。突合のルールが多い、拠点や雇用形態で条件が分かれる、といった場合は個別開発のほうが書きやすくなります。
どちらで作るにしても、毎日回す仕組みには月次の仕組みと違う性質が要ります。失敗に気づけることです。動かなかった日に誰も気づかず、数日分のチェックが抜けていた、が最悪の事故です。実行のたびに「今日は何件処理して何件引っかかったか」を必ず通知し、通知が来ないこと自体を異常として扱えるようにしておきます。
通知先は、普段使っている場所に流すのが定着のこつです。当方はSlackへの通知botをよく作りますが、メールでも構いません。専用の画面を開かないと結果が見えない仕組みは、数か月で見られなくなります。
つまずくのは、ルールにできない例外を抱え込むこと
書き起こしたルールに乗らない例外は必ず出ます。この人だけみなし残業、この部署だけ夜勤の扱いが違う。例外を全部ルールに足していくと、条件が増えすぎて誰も全体を把握できなくなります。
割り切りとして、例外の少数の人は自動チェックの対象から外し、いままでどおり人が見る、で構いません。シナリオの250人のうち例外が10人なら、残り240人分のチェックが消えるだけで、効果は十分に出ます。全員を対象にすることに固執すると、費用が膨らむうえに完成しません。
外した例外が誰なのかは一覧にして残してください。「この人たちは自動チェックの対象外」と明記してあれば、チェック漏れと混同されずに済みます。
まず「打刻と申請のずれ」の1項目から
チェック項目のうち、件数が多くて判断が単純なものを1つ選びます。多くの現場では「打刻と申請のずれ」がそれです。突合1本と通知だけなら30万円台から作れます。
回収は頻度で効きます。シナリオの月約27時間なら年間96万円で、30万円台の投資は半年経たずに戻ります。毎日ほどの頻度がない場合でも、週に数時間の突合があるなら計算してみてください。毎日・毎週の作業は、月次の作業より投資が早く戻ります。まず、チェックに使っている時間を1週間だけ記録するところから始めるのが確実です。
社労士事務所が顧問先分をまとめて行う場合は、顧問先ごとにルールが違う前提で、ルールを顧問先別の設定として持たせてください。当方が勤怠集計の記事で書いた「設定で吸収する」考え方と同じです。
