経理
EC受注処理の自動化で深夜の出荷作業をなくす。進め方と、売上を会計に繋ぐまで
ECは売れるほど苦しくなる瞬間があります。注文の確認、受注データの整理、倉庫への出荷指示、発送通知。1日数十件なら回っていた手作業が、売上が伸びた途端に深夜作業に変わる。人を増やす前にやるべきことがある、というのがこの記事の主題です。注文件数を仮置きした想定例で受注処理の時間を数字にしたうえで、SaaS同士の連携で足りる範囲と、その先に残る会計まわりの接続を、SaaS間連携を実装してきた立場から書きます。
バックオフィス自動化エンジニア
受注件数に比例して人の時間が増える構造のままでは、売上の伸びが負担になる
手作業の受注処理は、1件あたりの時間×件数で工数が決まります。この構造のままだと、販促が当たるほど夜が長くなり、繁忙期のたびに疲弊します。
複数のモールや自社サイトに出店している場合は、店舗ごとに管理画面を開いて注文を確認し、形式の違う受注データを揃える作業が上乗せされます。
出荷が遅れれば評価が下がり、評価が下がれば売上に響く。受注処理は事務作業でありながら、ECでは売上に直結する工程です。
月1,500件の注文なら、受注処理だけで月75時間
月1,500件の注文がある、モール2店舗と自社サイトを運営するECを考えます。注文の確認、受注データの整形、倉庫への出荷指示、発送通知で1件あたり平均3分かかるとすると、1,500件×3分=4,500分、月75時間です。営業日25日で割ると1日3時間。販促が当たって件数が5割増えれば、そのまま1日4.5時間になります。
EC一元管理サービスと倉庫代行サービスを連携させ、例外のない注文は人が触れずに注文→出荷指示→発送通知と流れる形にしたとします。人が見る例外(ギフト包装の指定、備考欄への要望、住所の不備、同梱の依頼)を全体の1割・150件、確認が要るぶん1件4分と置くと、150件×4分=600分、月10時間。差し引きで月65時間です。時給2,000円換算なら月13万円、年間156万円分の作業時間に相当します。
この形の要点は、人の仕事が全件の処理から例外の処理へ入れ替わることです。例外の条件を明文化して1割から5%に絞れれば、人の作業はさらに半分になります。件数が増えても、人の時間は例外の件数にしか比例しません。
この計算も御社の数字で追い直せます。使う式は「1件あたりの処理時間×件数」と「例外1件の処理時間×例外の件数」の2本だけです。各店舗の管理画面にある受注件数と、直近1週間の作業時間の記録をこの式に入れれば、自動化で残る時間の見当がそのまま出ます。
自社でやるなら: 受注から出荷までは既製SaaSの連携で足りる
受注の取り込み、在庫の引き当て、出荷指示、発送通知という流れは、EC一元管理サービスと倉庫側サービスの標準連携で組めます。この範囲を個別開発するのは、既製品が成熟しているいま、費用に合いません。
設計の中心は「何を例外にするか」を決めることです。全自動に近い設計でも、ギフト包装の指定、備考欄への要望、住所の不備、同梱の依頼などは人が見る側に倒します。例外の条件を明文化し、それ以外は人が見ない、と決めることが自動化率を決めます。
つまずきやすいのは移行期です。手作業の運用と自動の流れを並走させる期間に、どちらが正なのか曖昧なまま出荷が二重になる事故が起きがちです。店舗単位で切り替えるなど、正となる系統を常に1つに保ってください。
もう1つの注意は在庫です。複数店舗の在庫を一元管理に寄せると、どの店舗の表示在庫が正しいのかが切り替えの瞬間に揺れます。切り替え日は在庫の実数を数え直してから始めると、欠品と売り越しの両方を避けられます。
一元管理SaaSを入れたあとに残る、売上計上と入金の突合
受注から出荷が自動で流れるようになっても、経理側には仕事が残ります。モールごとの売上を会計ソフトに計上し、モールやカード会社からの入金を売上と突き合わせる作業です。モールの入金は手数料や広告費が差し引かれた振込額で届くため、売上と入金は金額が一致しません。ここを毎月Excelで解いている会社が多くあります。
これが、一元管理SaaSを入れただけでは埋まらない隙間です。受注・売上データを集計して会計ソフトに登録し、入金明細から手数料を分解して売上と照合する流れは、個別開発で自動化できる範囲です。
決済まわりの照合は、当方が決済システムの運用現場で自動化に携わってきた業務でもあります。全件を人が確認する状態から、金額が合わないものだけを人が見る状態に変えると、月次の締めが数日単位で縮みます。
返品やキャンセルも経理側に波及します。出荷後の返品は売上の取り消しと返金が発生し、モールの精算にもマイナスとして現れます。受注側の自動化を設計するときに、返品のデータがどこに記録され、会計側の訂正にどう繋がるかまで決めておくと、月次で数字が合わない原因の大半を先に潰せます。
受注〜出荷の自動化が先、会計の接続は最後
順序は、①受注〜出荷の自動化(一元管理サービスと倉庫連携の設定が中心)、②例外条件の明文化と運用の定着、③売上計上・入金突合の自動化、です。③は①でデータが一元化されているほど作りやすくなります。
③の相談をするときは、直近1か月分の受注データと、モールから届いた精算書、いまの会計ソフトへの入力方法の3点を用意してください。この3点があれば、どこまで自動化できて費用がどの帯になるか、初回の打ち合わせで見当をお伝えできます。
費用の考え方は2段です。①②はSaaSの利用料と設定で、開発費は基本的にかかりません。③は個別開発の範囲で、当方の費用帯では、売上データの会計取込の自動化が30万円台から。モールの数と手数料の分解の細かさで上がっていきます。
回収は、想定例の月65時間という分かりやすい差分に加えて、「販促を打っても事務が破綻しない」状態になることを数えてください。受注処理がボトルネックのままでは、売上を伸ばす施策そのものが打てません。事務の自動化が、売上側の意思決定を自由にします。
いまの受注処理を、1件の注文が届いてから発送通知までの手順として書き出し、各手順に「例外がなければ機械で判断できるか」と印を付けてみてください。印が付いた手順の割合が、御社で狙える自動化の範囲の見当になります。
