経理
経費精算のチェックを減らす。不備が入り口で生まれない形のつくり方
経費精算の申請を受け取り、領収書と1枚ずつ突き合わせ、金額や科目の誤りを差し戻す。承認印が揃うのを待って、会計ソフトに入力する。月末の経理はこの繰り返しで、チェックする側にもされる側にも歓迎されない業務です。先に結論を言うと、この領域は経費精算SaaSが主役で、個別開発の出番は狭い。月150件の想定でその根拠を計算し、それでも残る隙間がどこにあるかを書きます。
バックオフィス自動化エンジニア
チェックと差し戻しが、経理と申請者の両方の時間を食っている
経費精算のチェックは、申請1件ごとに「領収書と金額が合っているか」「科目と内容が合っているか」「規定の範囲か」を見る作業です。1件は数分でも、件数がまとまると半日になります。
差し戻しはさらに高くつきます。不備を見つけて申請者に戻し、直ったものをもう一度見る。1件の申請を2回3回とチェックすることになり、申請者側も往復のたびに手を止めます。紙で回している場合は、回覧と押印の待ち時間がここに乗ります。
もう1つ、チェックの基準は人に付きます。ある担当者は通すのに別の担当者は差し戻す、という揺れは申請者の不信のもとです。基準をシステムに持たせることには、時間の削減だけでなくこの揺れをなくす意味があります。
月150件の申請がある会社の場合
件数はすべて置いた値です。月150件の申請を、経理が1件3分でチェックすると 150件 × 3分 = 450分で、月7時間半。差し戻しが2割の30件出て、直ったものの再チェックに各3分なら 30件 × 3分 = 90分。経理側だけで月9時間です。
申請者の側にも往復のコストが出ます。差し戻し1件の修正と再申請に10分なら 30件 × 10分 = 300分で、月5時間。全社では月14時間、時給3,000円換算で月4万2,000円、年に約50万円が精算の往復に使われている計算です。
経費精算SaaSを入れて、申請の時点で形式・計算・規定超過が自動チェックされる形にすると、差し戻しの主因である計算違いや記載漏れは入り口で弾かれます。経理のチェックは「形式は機械が保証済み、内容だけ見る」作業になり、1件1分半なら 150件 × 1分半 = 225分で、月4時間弱。差し戻しの往復もほとんど残りません。
さらに法人カードの明細を直接取り込めば、立替の申請そのものが減り、150件という母数から小さくなります。御社の数字で置き直すのは、月の申請件数、1件のチェック時間、差し戻しの割合の3つです。
作る側の視点。この領域はシステム導入が主役
先に結論を書くと、経費精算はSaaSの標準機能が厚い領域で、個別開発の出番は狭いです。当方は業務の自動化を仕事にしていますが、この領域で最初に検討すべきは個別開発ではなく、経費精算SaaSの導入だとお伝えしています。
申請フォームの入力チェック、規定額の超過警告、承認フローの分岐、交通系ICカードや法人カードの明細取込、仕訳の自動生成と会計ソフト連携。ここまでが標準機能の範囲で、多くの会社はこれで前節の計算に近い形になります。
導入時にフローを紙のまま写すか、この機会に減らすかで効果は大きく変わります。選定の観点は、機能の多さより「自社の規定が設定で表せるか」です。トライアル期間に、実際の旅費規程や承認ルートをそのまま設定してみてください。案内資料では分からないことが、ここで全部分かります。
それでも残る手作業が、個別開発の対象です。1つ目は会計ソフトへの連携の隙間。使っている会計ソフトが連携先にない場合や、科目・税区分・部門の付け方に自社ルールがある場合、精算システムから出るデータを会計側の取込形式へ変換する処理が要ります。当方はfreee・マネーフォワードとの連携開発を実績として持っており、この種の変換は小さな開発で済む定番の案件です。
2つ目は、社内規定のチェックが標準設定で表せない場合です。出張の等級別日当や、部門ごとに違う上限のような複雑な規定は、申請データを規定と突き合わせて違反候補だけを一覧にする、後追いのチェック処理として作れます。3つ目は督促で、締め日を過ぎても未申請・未承認の人への連絡は、システムの通知メールだけでは動かないことが多く、Slackなど普段見ている場所への通知を足すと効きます。
どれも「システムを入れ替える」話にはなりません。いま入っているものの前後に小さな処理を足す形です。
差し戻しの理由を数えてから決める
順序は次のとおりです。(1) 月の申請件数と、差し戻しになる件数・理由を数える。差し戻し理由の上位が、選定でも設定でも最優先の対策項目になります。(2) 精算システム未導入なら、トライアルで自社の規定が設定で表せるかを確かめる。(3) 導入済みで手作業が残っているなら、残っている作業を書き出し、前節に挙げた隙間のどれかに当てはめる。設定で直るものも多いので、サポート窓口に「設定で直せるか」を先に聞くと、開発の範囲が最小になります。
費用の考え方です。システムの利用料は各社の公表プランによります。個別開発は隙間ごとに小さく、会計ソフトへの変換のような処理は当方の目安で10万円〜50万円の帯、規定チェックや督促まで組み合わせる場合で30万円台からが目安です。
経費精算は全社員が関わる業務なので、効果の計算には申請者側の時間も入れてください。先のシナリオでも、経理の9時間と申請者側の5時間はほぼ同じ規模でした。経理のチェック時間だけで判断すると、効果を小さく見積もることになります。
経費精算で「個別開発しましょう」から入る提案には警戒してください。標準機能で足りる部分を作り込むのは、高くて壊れやすいだけです。開発が意味を持つのは、導入後に残った隙間だけです。
