経理
給与支払報告書の転記を自動化する。年明けの手入力を合計の照合だけにする
年末調整が終わると、次は給与支払報告書の提出が待っています。給与ソフトの中に正しいデータはもうあるのに、電子申告用のソフトには入っていない。だから1人分ずつ、画面を見ながら打ち直す。この転記に年明けの数日を使っている会計事務所や税理士法人は多いはずです。600人分なら、転記だけで50時間です。これを照合1回に変える仕組みの作り方と、年1回しか動かない業務ならではの注意点を書きます。回収に2〜3年かかるという計算も、そのまま載せています。
バックオフィス自動化エンジニア
データはあるのに、もう一度入力している
給与支払報告書の中身は、年末調整を終えた給与データそのものです。新しく作る情報は何もありません。それでも作業が発生するのは、給与を管理しているソフトと、電子申告に使うソフトが繋がっていないからです。
システムとシステムの間を人が手で運ぶ。この形の作業は、入力そのものの時間に加えて、打ち間違いの確認にも時間を取られます。しかも給与支払報告書は提出期限が1月末に固定されていて、年末調整明けの繁忙期に必ず重なります。量は多く、期限は動かせず、判断は要らない。自動化に向いた条件が揃った作業です。
600人分×5分の転記は、それだけで50時間
顧問先の給与支払報告書が合計600人分ある会計事務所で計算します。1人分あたり、給与ソフトの画面を見ながら電子申告ソフトへ打ち込み、打ち間違いがないか見直すまでで5分。600人分×5分で3,000分、50時間です。1日8時間として6営業日強が、年末調整明けのいちばん詰まっている時期に消えます。
ここに変換の仕組みを入れます。給与ソフトから年末調整済みのデータを書き出し、電子申告ソフトの取込形式に変換して、取り込む。機械の処理は流すだけで終わり、人の作業は、取り込んだ件数と支払金額の合計を給与ソフト側の集計と照合することだけになります。600人分でも照合は1時間かかりません。6営業日分の手が、繁忙期にそのまま戻ってくる設計です。
時給3,000円で計算すると、50時間は年間15万円です。毎月の業務に比べて金額は大きく見えませんが、この作業は動かせない期限と繁忙期に必ず重なります。空いた6日間で何を受けられるかまで含めて考える業務です。
仕組みの中身: まず「取込機能があるか」を確認する
作る側から見ると、この業務のデータの流れは「給与ソフトから書き出す → 形式を変換する → 電子申告ソフトに入れる」の3段階です。最初と最後の段の仕様で、作り方の大半が決まります。
先に確認すべきなのは、電子申告ソフト側にファイルの取込機能があるかです。eLTAX対応のソフトの多くはCSVなどの取込に対応しています。取込機能があるなら、画面への自動入力は要りません。給与ソフトの出力を取込形式に変換するだけの小さな仕組みで済み、費用も保守も軽くなります。画面への自動入力(RPA)が必要になるのは、取込機能がない、または取込形式に載らない項目がある場合だけです。
この確認を飛ばしてRPAから入ると、変換だけで済んだものに画面操作の保守を抱え込むことになります。当方がシステム間の連携を作るときも、順番は同じです。ファイル連携で済む道を先に探し、画面操作の自動化は最後の手段にします。
毎年の動作確認まで含めて設計する
給与支払報告書は年1回の業務です。毎月の業務と違う注意点が2つあります。
1つ目は、動作確認の時期です。作ってから次に動かすのは1年後で、その間にソフトのバージョンアップや様式の変更が入ります。毎年12月に、数人分のテストデータで通し確認をする。この1時間を業務カレンダーに入れておくだけで、1月に止まって手入力に戻る事態を防げます。
2つ目は、確認の設計です。転記の自動化では、入れた件数と金額の合計を、給与ソフト側の集計と突き合わせる工程を必ず残します。600人分を自動で入れて、合計が合っていることを1回確認する。人の目の使いどころを「全件を追う」から「合計を照合する」に変えるのが、この自動化の正しい形です。
あわせて、扱うのは給与と個人番号を含むデータです。変換の途中でファイルがどこに残るか、誰のPCで動かすかを決めてから作ってください。
市販ツールで自作するか、開発を頼むか
Excel感覚で使える市販の自動化ツールで事務所が自作する道と、開発側に頼む道があります。分かれ目は、作ったあと誰が面倒を見るかです。
自作の利点は、様式が変わったときに自分たちで直せることです。そのかわり、作った職員が異動や退職でいなくなると、誰も中身が分からないツールが残ります。開発を頼む場合は、毎年の確認と様式変更への対応を保守として契約に含めるかを最初に決めます。年1回しか動かないものは、壊れたことに気づくのも年1回だからです。
御社の事務所にツールを触れる職員がいて、その人が続ける前提なら自作、いないなら変換部分だけを外注する形が現実的です。
判断がつかない場合は、最初の1年だけ併走する形もあります。作った側が1月の本番実行に立ち会い、翌年からは事務所側で回す。年に一度の業務は経験を積む機会も年に一度なので、最初の本番を一緒に越えておくと、その後が安定します。
規模の大きい顧問先1社分から通してみる
規模の大きい顧問先を1社選び、その1社分だけ通す仕組みから始めます。変換だけで済む構成なら30万円台から作れます。全顧問先へ広げるのは、1月に1回実運用で通してからで十分です。
回収は年単位で考えます。シナリオの年50時間なら、時給3,000円で年間15万円です。30万円台の投資は単純計算で2〜3年かかります。毎月の業務より回収は遅い一方、繁忙期のいちばん苦しい数日を空けられる点は金額の外側の効果です。年末調整から申告までの一連の流れのうち、どこでいちばん人が張り付いているかを数えてから決めてください。
この作りは給与支払報告書だけのものでもありません。源泉徴収票や支払調書など、年明けには同じ「ソフト間の転記」が並びます。1本目で作った変換の仕組みは、隣の帳票へ広げるときの土台になります。
